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夏の終わりに怖い本二冊

『怪談徒然草』(角川ホラー文庫) 加門 七海
『東京伝説―忌まわしき街の怖い話』(竹書房文庫)平山 夢明

 実話怪談シリーズが売れているらしい。
新潮社に続き、集英社、角川文庫と、年々賑やかになっている大型書店の風物詩、夏の文庫フェア。
その傍らで、ホラー文庫コーナーも負けてはいないどころか人気を二分しているようだ。
 目を引くのは、海外リメイク版映画が好調なジャパンホラーの原作本。
そして実話怪談集が、多くの出版社からこぞってシリーズ化され、かなりのスペースを占めていることだ。
 少々眉唾な気もして抵抗のあった実話ものを何冊か手にしてみたところ、怖いのなんのって、読んでいる間中、家の中で変な物音はするし、ペットボトルはひとりでに転がりだすし、食べていた塩せんべいが一枚だけカレー味に変わるという呪いにまでかかるありさまである。
その中でも、怖すぎてシャレにならなかった、とっておきの二冊をご紹介したい。
 数々の実話シリーズを発表し、朝日新聞の書評欄で「一番怖かった本」にも名前があがったホラー界の実力派、平山 夢明の『東京伝説―忌まわしき街の怖い話』は、都会の中の人間の狂気がなせる、サイコホラーや都市伝説を扱った短編集である。ただの実話ものと一線を画すのは、平山のじわじわと恐怖を見せていく構成力、筆力にあるだろう。
その中の「都会の遭難」は、実話だとしたら後味が悪くてやりきれない。手錠で拘束され、腐りゆく死体とともに水に浸される恐怖には、耐え難くて何度もページを閉じたほどである。誰もが被害者となり巻き込まれるともしれない都会の中に潜む悪夢。あの世の者とか、目に見えない者ではなくて、何よりも生きている人間の狂気が一番恐ろしいと痛感させられたせつな、恐怖はあっと驚く展開で、形を変えて襲ってくる。

 『怪談徒然草』は伝奇小説作家で筋金入りの霊感体質、加門七海の実話体験集である。自らも少々乱暴だというざっくばらんな語り口は、目の前で怪談話を聞いているような臨場感でぐいぐいと引き込まれる。
明らかに出る気配を感じて逃げ出した温泉宿から追いかけてきた幽霊の話。夜の神社で決して言ってはいけない言葉をうっかり口にしたため呪われた友人の話。無茶な工事をした後、9人もの宮司たちが次々と怪死を遂げた神社。鳥肌物のエピソード満載であるが、きわめつけは、友人の作家霜島ケイが、自著の中でもその恐怖体験を語っている「三角屋敷」の話だろう。
 三角形の土地というのは、家相から見ても最悪らしいが、その悪相をさらに強調させるかのように建てられた二等辺三角形のマンション。屋上と地下室では何らかの呪術的な儀式が行われているらしく、霧島は金縛りや奇怪な気配に悩まされる。そう、この「三角屋敷」は呪術を習得した何者かが、呪いをこめた住宅によって、住人たちにどのような災いがもたらされるか、実験目的で建てたマンションだったのだ。
霜島の作品では友人Sとして登場している加門であるが、本書では霜島の引越しパーティーに招かれ、屋敷に足を踏み入れた日からはじまり、友人を救おうと霊能者に何度も相談する一部始終までを、加門の側から語っている。多くの要望がありながら「本当に怖いからこれで最後にしたい」と、本書は「最終封印版」とされた。「死を招くからこれ以上係わるな」と、霊能者から警告されたのだそうだ。
 怖い本を読んでいると、普段は何でもない通りや、家の中が、恐怖でいっぱいになり、必要以上に、気配に敏感になるだろう。この世とあの世を隔てる河といわれる彼岸。当然のように、この世で生きていても、ふとしたきっかけで、あちら側からのコンタクトを感じたり、引き込まれたりすることがあるのかもしれないという気にさせられる。怖いけれど読まずにはいられない。恐怖小説はそんな欲求を刺激してくれるだけでなく、このような形で彼岸の存在を知覚させてくれる、ありがたいものなのかもしれない。
 ご紹介した二冊の本は「読まなきゃ良かった」という後悔を伴う話が多い。なぜなら、「祟り」という恐ろしいおまけつきのような気がしてしまうからだ。読んだからといって呪われるわけではないけれど、禍々しいものを共有し、ずんっと重たい何かをしょってしまったような恐怖は、読後もしばらく堪能できる。ほら、そうやって読んでるだけでも、何か背中に感じませんか?
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by novitama | 2007-08-31 23:48 |