気づかずにすむなら

 夫の部屋で探し物をしてパソコンの脇をすりぬけたとき、足に激痛が走った。
パソコンオタクの彼の部屋は、さまざまな機械部品や配線に加え、本や資料が山積みになっており障害物だらけである。
むきだしになっていたパソコンケースに指先を引っかけてしまったらしい。
足はじくじくと痛んだが、見なかったことにして指をティッシュでくるみ、そのまま寝ることにした。爪先が冷えていたおかげで、その日はあまり痛みを感じることなく眠ることができた。

 それから指先は思い出したように時折痛んだ。入浴時に。高い所の物を取ろうと爪先立ちになったときに。できるだけ意識が足に行かないようにそうっと過ごした。
そして、数日経った今日、もうそろそろいいだろうと傷口を見て愕然とした。
1×0.5センチの肉が、そぎ落とされたように消失しており、カサブタになる手前の赤い生乾きの断面を露出させていたのだ。

「ぎやっ」といまさらながらに驚きの声を上げ、慌てて消毒する。傷の位置を確認した途端、痛みの回路が神経と繋がり、激しく私を襲撃した。すでに治りかけているはずなのに。
ああ、でも良かった。怪我をした直後にこの傷口を直視していたら、この程度の痛みではすまなかったはずだ。何よりも見た目の痛々しさが、これでもだいぶましになってきているのだ。

こんな傷で何を大げさな、と思われるかも知れないが、私は情けないほど視覚的なダメージに弱い。血がドバッと噴き出していたり、肉が切れていたりするのを見るともうダメである。 実際に受けた傷の痛みより、「怪我を負った」という事実に、よりショックを受けるたちなのだ。

「ヒビケア」という軟膏のコマーシャルは、見るたびにギョッとさせられる。
「パックリー」、「パックリー」といいながら主婦たちが、ひび割れた指を画面にさらしているのだが、ゾンビの手か!と、突っ込みたくなるほど、どの指もグロテスクなまでに関節がパックリと割れ、お茶の間を恐怖のどん底につき落とすのだ。そのあまりのリアルさに、私は「イタタタタ」と自分の切れてもいない手をさすってしまう。

踊りをやっているので足の怪我はどんなに小さくてもかなりへこむ。
「脚が切断されたことにあとから気づいた」という、信じられないような事故のニュースを聞いたばかりだが、とにかく「見なければ大丈夫」という勝手な思い込みを信じて小さい頃から怪我をしても極力気づかないふりをして過ごしていた。

「こんな傷へーき、へーき」と、チャッチャッと手当ができる、たくましい人に本気で憧れる。
私が手当てをするとしたら「ギョェーー、こんなに切れちゃって、ひぇええ~~」と、必要以上にケガ人を怯えさせるにちがいない。

案の定、私の歩いたあとには、ところどころ血痕が固まっていた。
困ったことに今日もまたその周辺を掃除することができなかった。
なぜならそこには、私の足先からそぎ落とされた肉の断片が、間違いなく
落ちているはずだから。


血も凍る「ヒビケア」恐怖のCM動画

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by novitama | 2008-03-19 01:23 | 日常